「なぜ多くの企業がいまだに従業員のモチベーションを上げられないのか」ダニエル・ピンク

心理学
「なぜ多くの企業は従業員のモチベーションを上げられないのか」

キャリアアナリストであるダニエルピンクは、時代遅れの誤ったモチベーションマネジメントが原因だと主張します。今回は、Tedトークス「やる気に関する驚きの科学」をご紹介します。

 

☑ 3行で要約すると

  • ますますクリエイティブな仕事が増え、単純なルーティンは機械などにアウトソースされている
  • しかしほとんどの企業は、クリエイティビティを殺す「金銭的報酬」によってマネジメントを行っている
  • 今こそ、内発的な動機づけマネジメントによって、「自主性」目的」「成長」を見出させる必要がある

 

ロウソクの問題が示す、クリエイティビティと報酬の関係

 
 

陪審員の皆さん、こちらをご覧ください。これは「ロウソクの問題」と呼ばれるものです。ご存じの方もいるかもしれません。1945年に カール・ドゥンカーという心理学者がこの実験を考案し、様々な行動科学の実験で用いました。

 
 
 

ご説明しましょう。私が実験者だとします。私はあなた方を部屋に入れて、ロウソクと画鋲とマッチを渡します。そしてこう言います。




「テーブルに蝋がたれないようにロウソクを壁に 取り付けてください」

 


あなたならどうしますか? 多くの人は画鋲でロウソクを壁に留めようとします。でもうまくいきません。あそこで 手真似をしている人がいましたがマッチの火でロウソクを溶かして壁にくっつけるというアイデアを思いつく人もいます。いいアイデアですが。うまくいきません。

 
 
 
 
 

5分か10分するとたいていの人は解決法を見つけます。このようにすればいいのです。



 

 

鍵になるのは「機能的固着」を 乗り越えるということです 最初あの箱を見て単なる画鋲の入れ物だと思います しかしそれは別な使い方をすることもできロウソクの台になるのです。これがロウソクの問題です。 

 

金銭的報酬が、かえってクリエイティビティを下げてしまう

 

 

次にサム・グラックスバーグという科学者が このロウソクの問題を使って行った実験をご紹介します。彼は現在プリンストン大学にいます。この実験でインセンティブの力がわかります。

 

 
 

彼は参加者を集めてこう言いました。「この問題をどれくらい早く解けるか時計で計ります」 そして1つのグループには、この種の問題を解くのに一般にどれくらい時間がかかるのか平均時間を知りたいのだと言います。

 



 
 

もう1つのグループには、報酬を提示します。「上位25パーセントの人には5ドルお渡しします。1番になった人は 20ドルです」。これは何年も前の話なので物価上昇を考慮に入れれば、数分の作業でもらえる金額としては 悪くありません。十分なモチベーションになります。

 




このグループはどれくらい早く問題を解けたのでしょう? 答えは(報酬が与えられたほうが)平均で3分半余計に時間がかかりました。3分半長くかかったのです。そんなのおかしいですよね? …(中略)人々により良く 働いてもらおうと思ったら報酬を出せばいい。ボーナスにコミッション。あるいは何であれインセンティブを与えるのです。ビジネスの世界ではそうやっています。 

しかしここでは 結果が違いました。思考が鋭くなり、クリエイティビティが加速されるようにとインセンティブを用意したのに、結果は反対になりました。思考は鈍くクリエイティビティは阻害されたのです。 


この実験が興味深いのはそれが例外ではないということです。この結果は何度も何度も40年に渡って再現されてきたのです 。この成功報酬的な動機付けIf Then式に「これをしたらこれが貰える」 というやり方は状況によっては機能します。 


しかし多くの作業では うまくいかず時には害にすらなります。これは社会科学における最も確固とした発見の1つです。そして最も無視されている発見でもあります。

 

 

ビジネスの動機づけモデルは、いまだに時代遅れの外発的動機付けモデルである

 


私はこの数年というもの動機付けの科学に注目してきました。特に外的動機付け内的動機付けのダイナミクスについてです。大きな違いがあります。これを見ると科学が解明したことと、ビジネスで行われていることに食い違いがあるのがわかります。

 

 

金銭報酬は、単純作業の時だけは機能するが、時代遅れである



ビジネス運営のシステム、つまりビジネスの背後にある前提や手順においては、どう人を動機付け、どう人を割り当てるかという問題はもっぱら外的動機付けアメとムチにたよっています。



20世紀的な作業の多くでは これは実際うまくいきます。しかし21世紀的な作業には機械的なご褒美と罰というアプローチは機能せずうまくいかないか害になるのです。 



どういうことか説明しましょう グラックスバーグは これと似た別な実験もしました このように若干違った形で。問題を提示したのです。机に蝋がたれないようにロウソクを壁に付けてください。


条件は同じあなたたちは平均時間を計ります。あなたたちにはインセンティブを与えます。 どうなったのでしょう? 今回はインセンティブを与えられたグループの方が断然勝ちました。なぜでしょう? 箱に画鋲が入っていなかったら 問題はバカみたいに 簡単になるからです (「サルでもわかる」ロウソクの問題) (笑) 



If Then式の報酬はこのような作業にはとても効果があります。単純なルールと明確な答えがある場合です。報酬というのは視野を狭め、心を集中させるものです。報酬が機能する場合が多いのはそのためです。だからこのような狭い視野で目の前にあるゴールをまっすぐ見ていればよい場合にはうまく機能するのです。しかし本当のロウソクの問題ではそのような見方をしているわけにはいきません。答えが目の前に転がってはいないからです。周りを見回す必要があります。報酬は視野を狭め私たちの可能性を限定してしまうのです。 

 
 

ルーチンワークは代替され、クリエイティビティの高い仕事が増えてきている

 
 

これがどうしてそんなに 重要なことなのでしょうか?西ヨーロッパ アジアの多く、北アメリカ オーストラリアなどでは、ホワイトカラーの仕事にはこのような種類の仕事(単純なルールと明確な答えがある仕事)は少なく このような種類の仕事(クリエイティビティのある仕事)が増えています 。


ルーチン的、ルール適用型、左脳的な仕事、ある種の会計、ある種の財務分析、ある種のプログラミングは簡単にアウトソースできます。簡単に自動化できます。ソフトウェアのほうが早くできます。世界中に低価格のサービス提供者がいます。だから重要になるのは もっと右脳的でクリエイティブな考える能力です。


ご自分の仕事を考えてみてください。あなた方が直面している問題は、あるいは私たちがこの場で議論しているような問題は、こちらの種類でしょうか?明確なルールと 1つの答えがあるような? そうではないでしょう。ルールはあいまいで答えはそもそも 存在するとしての話ですが、驚くようなものでありけっして自明ではありません 。


ここにいる誰もが その人のバージョンの ロウソクの問題を 扱っています そしてロウソクの問題は、どんな種類であれ どんな分野であれ If Then式の報酬は、企業の多くはそうしていますが機能しないのです。これには頭がおかしくなりそうです。…(中略)

 
 

金銭的インセンティブは、パフォーマンスを下げている


…(中略)先月 ほんの先月のこと LSEの経済学者が 企業内における成果主義に関する 51の事例を調べました 


彼らの結論は、「金銭的なインセンティブは全体的なパフォーマンスに対しマイナスの影響を持ちうる」ということでした。科学が見出したこととビジネスで行われていることの間には食い違いがあるのです。


この潰れた経済の瓦礫の中に立って私が心配するのは、あまりに多くの組織がその決断や 人や才能に関するポリシーを時代遅れで検証されていない前提に基づいて行っている 科学よりは神話に基づいて行っているということです 



今こそ、内発的動機づけが必要だ

 

この経済の窮地から 抜けだそうと思うなら、21世紀的な答えのないタスクで高いパフォーマンスを出そうと思うのなら、間違ったことをこれ以上続けるのはやめるべきです。人をより甘いアメで誘惑したり、より鋭いムチで脅すのはやめることです。まったく新しいアプローチが必要なのです。


いいニュースは 科学者たちが 新しいアプローチを 示してくれているということです。内的な動機付けに基づくアプローチです。


ビジネスのための新しい運営システムは3つの要素を 軸にして回ります。(1)自主性・(2)成長・(3)目的


自主性自分の人生の方向は自分で決めたいという欲求です。成長何か大切なことについて上達したいということです。目的私たち自身よりも、大きな何かのためにやりたいという切望です。これらが私たちのビジネスの全く新しい運営システムの要素なのです。



WikipediaがMicrosoftの百科事典に打ち勝った理由

 



今日は自主性についてだけお話ししましょう。…(中略)1990年代半ば Microsoftは Encartaという百科事典を作り始めました。適切なインセンティブを設定しました。何千というプロにお金を払って記事を書いてもらいました。 たっぷり報酬をもらっているマネージャが全体を監督し予算と納期の中で出来上がるようにしました。 


何年か後に別な百科事典が開始されました。別なモデルを採っていました。楽しみでやる。1セント、1ユーロ、1円たりとも支払われません。みんな好きだからやるのです。ほんの10年前に経済学者のところへ行って。こう聞いたとします。「ねえ、百科事典を作る2つのモデルを考えたんだけど対決したらどっちが勝つと思います?」 


10年前、この地球上の まともな経済学者で Wikipediaのモデルが勝つという人は1人もいなかったでしょう。これは2つのアプローチの大きな対決なのです。…(中略)内的な動機付けvs 外的な動機付け自主性・成長・目的 vs アメとムチそしてどちらが勝つのでしょう? 内的な動機付け 自主性・成長・目的が ノックアウト勝利します。

 

21世紀の動機づけによるマネジメントが必要だ!

まとめましょう。科学が解明したことと ビジネスで行われていることの間には食い違いがあります 科学が解明したのは


1. 20世紀的な報酬:ビジネスで当然のものだと みんなが思っている動機付けは機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません。


2. If Then式の報酬は時にクリエイティビティを損なってしまいます 


3. 高いパフォーマンスの秘訣は報酬と罰ではなく、見えない内的な意欲にあります。自分自身のためにやるという意欲、それが重要なことだからやるという意欲。


大事なのは私たちがこのことを知っているということです。 


科学はそれを確認しただけです。科学知識とビジネスの慣行の間のこのミスマッチを正せば、21世紀的な動機付けの考え方を採用すれば、怠惰で危険でイデオロギー的なアメとムチを脱却すれば、私たちは会社を強くし多くのロウソクの問題を解き、そしておそらくは 世界を変えることができるのです。これにて立証を終わります。(拍手)

 
 
彼の著書「モチベーション3.0」もおすすめです(Kindle版も存在しました)

モチベーションについて信じられていることの大半が、とてもではないが真実とは言えない……これを本書で示したい。厄介なのは、動機づけについて、多くの企業が新しい知識に追いついていないという点だ。今なお、きわめて多くの組織が、人間の可能性や個人の成果について、時代遅れで検証されていない、科学というよりほとんど俗信に根ざした仮定に基づき運営されている。目先の報奨プランや成果主義に基づく給与体系がその例だ。(amazonより)



 

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